図書館でミステリ講座|第61回 千澤のり子エッセイ

 12月の初め、愛知県名古屋市にある志段味図書館で、推理小説に関する講座を行ってきました。
 題目は推理小説ですが、要旨は本格ミステリに関してになります。これまで、天狼院書店と、よみうり文化センター自由が丘にて同様の講座を開催したことがあります。
(写真引用先:志段味図書館のWEBサイトより)
 
 なぜ突然縁もゆかりもない地で講演をしたかというと。
 6月に知多半島に遊びに行った際、案内してくれた作家の越尾圭さんとのミステリ談義が、同行してくださったツイッターネームこなつむりさんにとってあまりにも面白かったらしく、もっと多くの方に聞いてもらいたいと、図書館の館長さんに相談したことがきっかけになります。
 本決まりになってから、戸惑いました。だいぶ人前で話すことに慣れてきたとはいえ、初めて行く場所で、一人で話せるのかしら。
 今さら何を言うのだと、あちこちからツッコミを受けそうですが、私は極度のあがり症です。ミステリやドラマ、演劇の話でなければ、雑談すらうまくできません。本番は徐々に迫ってきます。
 しゃらくせーこと言ってないで、本格ミステリの使者になればいいのよ!
 急に謎の使命感が心に宿り、勇気を出すことができました。
 いざ、出発。初めてのおつかい気分で乗り換えに戸惑い、よく分からないままにこなつむりさんと合流できました。
 志段味図書館はとても広くて綺麗で、活気に溢れていました。ご挨拶では、館長さんにも、スタッフさんにも、あわあわしてしまう始末。著作が並べてあり、正面にはどこかのお子さんが描かれた歓迎の絵が飾ってあり、地元ケーブルテレビの撮影もあり、大恐縮です。

 放出本を漁り、いえ、眺めることで、心を落ち着かせようとしていたら、本格ミステリ関連の本が目に留まりました。児童向けの叢書です。
 それらを見て、私も図書館からミステリの世界に深く入ったことを思い出しました。最初は買ってもらったクイズ本でしたが、図書館でポプラ社の江戸川乱歩に出会い、ホームズやルパンに移り、あかね書房や秋田書店の叢書でいろいろな作家に触れ始めた記憶があります。
 文章を生業にする世界に入ってから、図書館本に対する意見は身に染みるようになっています。でも、本と出会うきっかけにも、絶対に図書館は必要です。
 新刊では手に入らない自分の本を見ても、そう思いました。ネットで高額で売られているのを見たとき、もうこの本を新たに手に取れる人はいないんだろうなあと思っていましたが、図書館にはまだ残っています。少しだけ、自分の活動に希望が持てました。
 志段味図書館は、子供たちの居場所のような雰囲気もあって、館長さんは大人気でした。まったく覚えていませんが、図書館にいることの多かった幼い頃の私も、きっとスタッフさんたちに遊んでもらっていたのでしょう。
 ついに本番がやってきました。
 直前まで身体が震え出しそうなのに、ホワイトボードに自分の名前を書き、お客さまのほうを向いたら、気持ちが切り替わります。

 今回は、推理小説は好きだけど、漠然としていて、どういう本を読んでいいのか分からないといった方々に、歴史とともにお話をしました。
 お客さまは熱心にメモを取ってくださったり、目を見て頷いてくださったりして、とても話しやすい講座でした。ちょっとマニアックすぎたかなと思いましたが、謎の使命は果たせたはずです。もうちょっと、昭和30年代や40年代に触れてもよかったかなと反省しています。
 後半の質疑応答で、私が推薦した本は、夕木春央『方舟』と、浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』です。聞かれたら、その場のアドリブで答えているので、毎回推薦図書は異なります。トリックが大好きと、津島誠司『A先生の名推理』を挙げたこともありました。
 2022年は、私が初めて推理小説を読んでから、ちょうど40年になります。
 ミステリのために何かをしたい。
 この思いだけでここまでやってこれた、節目としての講座だった気がしています。
 関係者の皆さまには、この場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。またぜひ、訪れたいと思っています。

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