世界にひとつだけのブックカバー|第31回 千澤のり子 エッセイ

 少し前、SNSでバトンが流行っていました。ある人からの指名で議題が回ってきて、答えると同時に次の人を指名するという形式の遊びです。
 私もいくつかいただいて答えましたが、必ずアンカーにしています。なぜなら、バトンがとても苦手だからです(この件は2回ツイートしていますが、もう少し詳しく語ります)。
 バトンの議題が「知っている元素記号」や「好きなスポーツ選手」ならば、まったくなんとも思いません。回ってきても「無理。分からない」の一言で終わらせられます。
 でも、自分の知っている分野ならば、心情が異なります。
 まず、いつ回ってくるのだろうという焦りと、回ってこないかもしれないという不安に苛まれます。
 それと同時に、議題はバトンを受け取った人しか答えてはいけないという気がしてきます。私も一緒に語りたい内容なのに、回ってきた人だけの特権のように思えてきて、悪気のない仲間はずれに巻き込まれた感覚が生じ、とても虚しく、寂しくなってきます。
 ただ、自由に発言のできる場ですから、「やめてほしい」という気持ちにはまったくなりません。楽しそうな人たちの邪魔をしたくないので、負の感情もできれば見せたくありません。きっと、私が神経質すぎるだけだと解釈するようになりました。
 先日、私のこういう思いを知っていても受け取ってほしいとバトンをいただきました。お題はブックデザインです。1日に1回、説明はしないで書影をアップし、次の人を1人だけ指名する。それを7日間続けるという内容です。
 主旨は異なりますが、本がないと成り立たないグッズ・ブックカバーを紹介します。
 1つは、佐久間真人さんのデザイン。昨年、佐久間さんの個展で文庫サイズを買ったのですが、友達の誕生日にプレゼントしたので、今年は自分用にハードカバーサイズを選びました。
 もう1つは、イラストレーター・にご蔵さんの手ぬぐい製。にご蔵さんはご自身のサイトでオリジナルグッズを販売していて、毎年カレンダーを注文しています。最近知ったお薬手帳と一緒に購入しました。
 最後に、イクタケマコトさんのデザイン。なんとこのカバーは、世界で私しか持っていません。「イクタケさんのブックカバーが欲しい」と問い合わせたら、製作されていないとのこと。でも、特別に作っていただけたのです。これを機に、近々、別のイラストのブックカバーが販売されるかもしれません。

(編集者注:写真左上から時計回りに、にご蔵さん、佐久間真人さん、イクタケマコトさん)
 イクタケさんとの出会いはツイッターでした。ミステリ作家の似顔絵を描いているイラストレーターさんがいることを知って、「私も描いてもらえたらいいなあ」とつぶやいたら、そのつぶやきを見つけられて描いてくださったのです。面識どころか、やり取りもしたことすらありません。ネットで検索した画像や情報をもとにイメージして描いてくださった似顔絵は、ずっとツイッターのアイコンにしています。
 イクタケさんの絵で特に好きなのは、著書『としょかん町のバス』と鳥飼否宇『天災は忘れる前にやってくる』の装画です。前者は100以上の物語を描いたページがまさに圧巻の一言につきます。たまに見ていますが、未だに全編分かりません。後者は初めてミステリの装画を描かれたとのこと。ミステリがすごく好きで、その装画を担当された喜びが絵からも伝わってきます。

 線のはっきりした、明るくにぎやかな絵を描かれる印象が強いですが、静かな夜の絵も魅力的です(https://ikutake.wixsite.com/ikutake-illust/emotional-cm15)。闇ではなく、光のある夜空の色遣いは、ずっと見ていたくなります。童話風の絵も描かれているので、いつかイクタケさんの絵に文章をつけられたらと思っています。
 交友のある3名の方のブックカバーは、仕事ですぐ読む本にかけています。なぜか家の中ではしょっちゅう本が消えますが、ブックカバーをかけておけば、すぐに見つかります。
 オリジナルグッズは、作った方との距離が近いため、孤独感が薄れていくようにも感じられます。
 紙の本でしか味わえない良さが、こんなところにもあったのだと苦手なバトンがきっかけで知ることができました。

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