我が家の書棚を紹介します(前編)|第8回 黒田研二 エッセイ

 うむむむむむ。
 正直、困り果てております。あまりにも悩みすぎたせいで、だんだん頭がハゲてきちゃいました。いや、ハゲはもともとなんだけどさ。ほっとけ。
 いや、なにをそんなに困ってるかって、このエッセイですよ。アイドルを追いかけて日本全国を渡り歩いている僕が、そのついでに(ついでとかゆーな)各地の古書店を巡って、皆さんにご紹介しちゃおうと思って始めたこの企画。全国の面白古書店をネットで検索し、京都へ行ったらあのお店、福岡へ行ったらあのお店……と、準備万端で待機していたんですけど、一連の騒動で予定されていたアイドルイベントがすべて中止となり、遠征することができなくなっちゃいました。
 そーゆーことなら仕方がない。遠くへ出かけることはあきらめて、自宅近辺の古書店を紹介しようかとあれこれ調査していた矢先、日本全国に緊急事態宣言なるものが発令されて、外出することさえままならなくなってしまいました。取材にうかがおうと思っていたお店も軒並み休業状態。あらららら。
 残念です。一体この先、どうなってしまうのか? とっても不安ですが、とにかく今は外出を控えて、この騒動が収束するのを根気よく待ち続けるしかありません。
 幸いにも、僕は――そしてこのエッセイを読んでくださっている皆様も――本が大好きです。本があれば、どれだけ家の中に閉じこもっていようと、暇を持て余すことなんてありません。今こそ、山のように積み上がった未読本を消化するとき。自宅で思う存分、読書を楽しみましょうよ! はいっ、お悩み解決! めでたしめでたし。
 ……いや、めでたしめでたしじゃねーよ。このエッセイをどうすりゃいいんだって話です。
 足りない知恵を絞りまくって考えました。ネットで見つけた面白そうな古書店を片っ端から紹介していこうか? とか、古書店を舞台にしたショートショートでも書いちゃおうか? とか、いっそのこと古本とフルチンを間違えたことにして、僕の全裸画像でもアップしてやろうかとまで考えましたが、すんでのところでそれは思いとどまり、とりあえず今回は我が家の書棚でも紹介してみようということになりました。
 急場しのぎの思いつきですみません。つまらなかったら正直に仰ってくださいね。こんなことをやってほしい! というリクエストなどもありましたらぜひ。今後、柔軟にお答えしていきたいと思います。フルチン希望ならそれもまたよしということで。


我が家の書庫

 さて。実家の書庫であります。
 ちゃんと数えたことはありませんが、以前取材に来てくださった《本の雑誌社》の編集者さんの推察だと、蔵書は一万五千冊ほどではないかとゆーことです。
 この書庫、いたるところに書棚があり、しかも入口が狭いため、室内全体を撮影することが難しいんですよね。というわけで、このよーなモノリスみたいな写真となってしまいました。
 実はここ、もともとは応接間でした。天井からはシャンデリアが吊され、部屋の片隅にはピアノ。高そうな絨毯の上には、これまた高そうなソファが置いてあって、休日はそこで優雅にくつろぎつつ、ステレオコンポから流れてくるクラシック音楽に耳を傾ける――実際に聴いていたのはピンクレディーとか中森明菜でしたが――そんな場所でした。
 しかし、自分の部屋では収納しきれなくなった本が次第に応接間へと運ばれるようになり、ステレオの横にはいくつも本棚が並べられ、ピアノの上にも本が積み重なり、ソファに座ることができるのは人ではなく本になって、気がついたときには応接間とは到底呼ぶことのできない空間に変貌。
 足の踏み場がなくなるどころか、身長を遙かに超える高さまで本が積み上がって、ああこりゃヤバいな、今地震が起こったら絶対生き埋めになっちゃうな、と不安に感じ始めた頃に事件は起こりました。
 どーーーーんっ!
 平成十七年――今から十五年前のある日、応接間から轟音が。何事かと駆けつけてみると、本棚が倒れ、あちらこちらに本が散乱し、なんだかもうとんでもない事態に。
 しかし、本棚の本がすべて床に落ちているというのに、本の高さはあまり変わっていません。……あれ? どゆこと? おそるおそる室内に足を踏み入れると、ずぼずぼと地面が沈んでいきます。あのときは異次元に迷い込んだのかと、マジで思いましたね。これからこの世界の勇者となってドラゴンと戦うのかと一瞬心躍らせましたが、実際にはそんなことはなく、ただ床が抜けただけでした。そう――本の重みに耐えきれず、応接間がついに崩壊しちゃったんです。
 日頃お世話になっている工務店のオジサンを呼んで、あれこれ調べてもらったら、本の重さで家全体まで傾いちゃってたそうで、いやもう怖い怖い、本の重さをなめちゃいけませんよ。読書好きの皆さん、お気をつけください。
 すぐに修理をお願いしたんですが、床を修理したところで、これだけの本をまた並べたら、同じような事態になるのは目に見えています。ということで、業者さんと相談した結果、床下をなくしてしまうことに。


書庫の入口。

 ご覧ください。写真ではわかりにくいかもしれませんが、書庫の入口にいきなり階段があります。廊下と較べて、室内は二十センチほど低い位置にあるんです。ぼんやり考えごとをしながら部屋に入ると、階段を踏み外して足をひねってしまうというなんとも恐ろしい部屋。
 つーわけで、その年の夏には立派な書庫ができあがりました。工事の間、大量の本を別の場所に保管してもらったり、書庫が完成したあとは本を並べるのに一週間以上かかったり、とにかく大変でしたが、よーやく本がすべて収まったときは、感激もひとしおでしたよ。
 さて。では、書庫にどのような本が並んでいるのか、これからじっくりと紹介して……あ、ちょうど枚数が尽きてしまいました。書庫の紹介は次回に続くとゆーことで。皆様、苦し紛れのこの企画、もうしばらくお付き合いくださいませませ。

《今月のくろけん》
 日本全国のお城を舞台に描かれた歴史ミステリアンソロジー『御城の事件〈西日本篇〉』(光文社文庫)に、「幻術の一夜城」という作品で参加しております。以前、『忍者大戦 赤ノ巻』(光文社文庫)に書かせていただいた「怨讐の峠」の後日談。併せてお読みいただけると幸いです。どうぞよろしく。
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334790127

(中編はこちらへ)

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