第12回 ミステリいろいろ”初めて話”

 先日、同世代のミステリ好きの友達と、互いのミステリ経験について話す機会がありました。
プライベートで仲良くしている人の8割くらいがミステリ好きの人でも、ほとんどミステリの話はしません。ほかの人の読書歴が気になるので、ごくたまに2~3人の場で訊ねることはありますが、私はたいてい聞き役です。まったく不満に思っていなかったけれど、心のどこかでは誰かに話したいという思いがあったのだなあと実感しました。
会話はすべて前者が友達、後者が私の順です。
「初ゴッド(島田荘司氏)は?」
「『死体が飲んだ水』。それから『夜は千の鈴を鳴らす』、『Yの構図』。『占星術殺人事件』も読んだけど、同じ作者だと認識していませんでした。それで、『奇想、天を動かす』で大爆発」
「吉敷派だったのですね。私は『占星術殺人事件』です。最初の版を図書館で見かけて読みました。あとは『斜め屋敷の犯罪』から順番どおりです。『嘘でもいいから殺人事件』と『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』は図書館本だったかもしれないなあ」

 新本格は、友達はノベルスでリアルタイム、私は若干遅れて文庫から入りました。
「四大奇書はどの版で読みました?」
「『虚無への供物』は講談社文庫の水色背、『ドグラ・マグラ』は角川文庫、『匣の中の失楽』は講談社ノベルス、『黒死館殺人事件』は図書館だったので覚えてないです」
「私も『虚無』は同じ版ですよ。表紙が薔薇人間。『ドグ・マグ』と『黒死館』は現代教養文庫だったかも。『匣失』は講談社文庫です。『黒死館』は挫折しましたねえ」
「同じです! さっぱり分かりませんでしたよ」
 話題は初めて読んだミステリに移りました。
「小3か4の頃であかね書房から乱歩・ホームズ・ルパン三点セットでした」
「逆だあ。私は小3で『呪いの紋章』、ポプラ社を制覇してからいろいろな叢書に移りました」
「あかね書房はねえ、ヴァン・ダインが『ドラゴン殺人事件』とか、どういう選択をしているのかと」
「秋田書店のほうが王道って感じでしたよね」
 あの作品はこんなタイトルになっていたとか、真っ黒な表紙の本があったとか、クロフツがとか、フィルポッツがとか、検索エンジンをまったく使わず、記憶だけで話は進んでいきました。
 私は『幻の女』を子供向け翻訳で読んだ記憶があり、どの叢書だったか聞いてみても、友達も分からず。帰宅してから森英俊・野村宏平『少年少女昭和ミステリ美術館』で調べてみても、リストにはありませんでした。確かに読んでいるのに、版元は分からずじまいです。

「6年生でアガサ・クリスティと横溝正史」
「早っ! 私は中1でしたよ」
「よく意味が分かりませんでしたけどね」
「初めて読んだのが三本指でした。今ならいろいろ分かります」
「それは『本陣殺人事件』ですね。私は『八つ墓村』からメジャーな作品に入りました」
「クイーンやカーは後ですか」
「そうですね」
 密かにリサーチしていますが、先に読んだのがクリスティかクイーンかによって、微妙にその後のミステリ好みが変わってきます。私は子供向けではクイーン『エジプト十字架の秘密』が先でしたが、大人向けは小4のときに『そして誰もいなくなった』。『ABC怪事件』と『アクロイド殺害事件』は子供向け、その後は中1で『火曜クラブ』と続きます。クリスティを先に読み、クイーンはそれからでした。
 ミステリは小説より前に推理クイズ本で読んでトリックや犯人を知っていたのに、その本のタイトルをすっかり忘れています。その本は「私(主人公)が犯人」や「子供が犯人」「一人何役の作品」がコラムで読みやすくまとめてありました。つまり、私がすごく好んで読みそうな本の大半がネタバレをされていたのです(『オリエント急行殺人事件』は、なぜかネタを知らずに読むことができました)。
 たぶんこの本かなと買ってみたのが、緑川良『推理クイズ全百科』です。でも、読んだことは思い出しても、違いました。挿絵をはっきり覚えている『Xの悲劇』や『三角館の恐怖』は、この本には載っていませんでした。

ちょっとお高かったけれど、後悔はしていません。なんとなく、しばらくミステリ古書集めは、子供向け作品になりそうな気がしています。

千澤のり子(ちざわのりこ)

1973年生まれ
作家。近刊は『鵬藤高校天文部 君が見つけた星座』。
ボードゲーム好きで『人狼作家』の編集も手がけ、羽住典子名義でミステリ評論活動も行っている。

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