第6回「装幀・装画のこと」(『本格ミステリ・ベスト10』原書房)/(羽住典子)

探偵小説研究会編『本格ミステリ・ベスト10』(原書房)の編纂に羽住典子名義で毎年携わっておりまして、数年前からコンテンツのひとつ「装幀座談会」の担当をするようになりました。
「装幀座談会」とは、11月から翌年の10月に出版された広い意味でのミステリ作品の装幀について語り、いろいろな賞を決めていくという内容です。選考委員は、漫画家の喜国雅彦さんと国樹由香さんのご夫妻。私の仕事は司会と構成です。絵を描かれる方々の作品の捉え方やこだわりを直接お聞きすることができる、とても貴重な経験をしています。
 謙遜ではなく、私はデザインセンスがまったくありません。AとBを見比べて「Aのほうが好き」と感じても、ほかの方が「Bのほうがいい」と言えば、素直に「Bのほうがきっと良いものなのだろう」と思ってしまいます。こんな感じなので、自分の書いた本ですら、装幀はすべておまかせにしています。
 それでも、絵を見るのはもともと好きです。

 画像のひとつめは、昨年公開されていた「怖い絵」展の図録です。公式ポスターにもなっていたポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」のような絵はたまらなく好きです。少女が目隠しをされているからこそ、余計に惹きつけられているのかもしれません。絵画は直接見て、絵の放つ空気感を味わいたいですが、日程的になかなか足を運べないのが残念です。

 本記事の第2回で触れた『詩とメルヘン』や『MOE』は、イラスト目当てでも読んでいました。黒井健さん、葉祥明さん、永田萌さんの絵は今でも大好きです。綾辻行人さんの『囁き』シリーズは、タイトルや著者名を見る前にきたのじゅんこさんがノベルスの表紙を描いていると驚きましたし、安房直子さん作品の装画を手がけた味戸ケイコさんが、佐々木丸美さんの装画も描かれていると知ったときも衝撃的でした。
 コンプリートを目指したいほど好きなイラストレーターさんは、新井苑子さんです。ふたつめの画像のように、主に花でだまし絵を描かれる方です。
 新井苑子さんを初めて知ったのは、ハイクラウンチョコレートのおまけでした。名刺サイズの大きさで、12ヶ月のイメージにそった絵が入っています。でも、どの箱にどの月が入っているのかは分かりません。今なら大人買いしますが、当時、私は小学生。お年玉を少しずつ崩し、ダブるたびにため息をつき、結局全部の月を集め終える前にキャンペーンは終わってしまいました。
そのおまけの絵は『イメージの旅』(グラフィック社)に収録されています。一番好きな絵は2月です。雪景色の中、雪のかぶった大きな葉っぱ付きのにんじんがポストになっていて、ポストのてっぺんに乗っているリスとオレンジ色の服を着た女性が向かい合っています。寒いのに暖かく、にんじんをポストにする発想がとても素敵です。

みっつめの画像は「マリリン・モンロー」です。『フローラ美術館』(河出書房新社)には奥付、『花の森』(岩崎美術社)ですと見開きサイズで見られます。口唇の中央に薔薇が描かれ、ホクロはてんとう虫。これだけでモンローだと分かる、セクシーなイラストです。新井作品の中で一番好きな絵です。
新井苑子さんはハヤカワ文庫の『オズ』シリーズの装画でも有名ですが、『SONOKO ARAI―inspiration crystal』には、『不思議の国のアリス』の絵も収録されています。アリスといえば水色の服に白いエプロンですが、新井苑子さんの描くアリスは白襟の黒いブラウスに、ピンクのバラ柄のエプロンスカートをはいています。髪の毛はおかっぱで、リボンの色は黒です。巨大化の場面を描いていて、通常なら手足が屋敷から飛び出るだけですが、この絵のアリスは屋根を突き破って立ち上がっています。ちょっと珍しいアリス画です。
本の数だけ装幀があり、私はその装幀を周囲の方に見てもらいたくて、移動中でも本はカバーをかけずに読んでいます。それが、紙の本の良さでもあると思います。利便性が高いので電子書籍の否定はしませんが、みんながみんな同じ本を読んでいるようで、なんだか味気ない気がしています。
その電子化が進むと、さまざまな大きさがあって、一ページずつめくってくのが楽しい画集までも、画一化されてしまうのではないかしらと、最近少し不安を感じています。取り越し苦労で済みますように。

千澤のり子(ちざわのりこ)

1973年生まれ
作家。近刊は『鵬藤高校天文部 君が見つけた星座』。
ボードゲーム好きで『人狼作家』の編集も手がけ、羽住典子名義でミステリ評論活動も行っている。

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