怖い本|第60回 千澤のり子エッセイ

 先日、ショートショート怪談の依頼を受けました。
(怪談……。うーん、怪談。初めて書くなあ)
 秒でお返事をしたものの、書き始めるとなると迷います。
 どういったものを怪談と呼ぶのでしょうか。
 そこそこ読んではいますが、定義を語れるほど詳しいわけではありません。なんとなく、お化けが出てくる話かなあとイメージしています。
 辞書では、2つの意味がありました。「化け物・幽霊などの出てくる気味の悪い話」「真相がさだかでなく、納得のいかない出来事」。ウィキペディアでは、「怖さや怪しさを感じさせる物語の総称」。
 怖い話でいいのかしら。要は、ホラーかな。
(ホラーも書いたことがなかったのだった!)
 振り返ると、本や映像で怖いと思ったことがあまりありません。
 大きな音にびっくりする。
 血の描写が痛そうなあと思う。
 グロい場面では気持ちが悪くなる。
 このくらいです。
 ラフカディオ・ハーンの怪談で琵琶法師が出てくる話と、巨大物体に人間が食べられてしまう場面が怖いと感じるくらいです。
 耳なし芳一
書影出典:Amazon
 前者はタイトルを口に出すのも恐ろしいくらい苦手です。この場面が出てくる話は叫びたくなります。あしべゆうほ『悪魔の花嫁』の第5巻の最終話は未だにトラウマになっています。何度も再読しても、この話だけは今でも読めないでしょう。
 後者は、諫山創『進撃の巨人』に代表されます。頑張って10巻くらいまで読み、だんだん怖くなくなってきたのですが、なんとなく放置しています。
 こういった話にすれば、自分でも怖くなるのかな。
 でも、これって怪談といえるのだろうか。
 しばらく悩み、自分が一番怖いと思う出来事から発想していきました。
 フィクションではあまり怖がりませんが、実際の私はかなり怖がりです。
 まず、足場の安定しない高いところ。
 高いところは好きでよく行くのですが、いざとなると足がすくみます。寸又峡にある夢のつり橋は、自分が行きたいと家族旅行の行程で組んだのに、渡れずじまいでした。
 吊り橋
 お化け屋敷も苦手です。膨大な人数のいるサークルに所属していた大学時代、一部の人たちが、学園祭でお化け屋敷を作りました。「絶対怖くないから」と、仲の良い同級生男子に誘われて入ってはみたものの、号泣してしゃがみこんでしまいました。
「ふんぎゃあああああ」
「羽住、俺だよ、俺」
「うぎゃあああああ」
「お化けじゃないよ。俺だよ」
「ひいいいいいいい」
「分かった。出口まで連れて行くから」
 お化け役に送ってもらうという、前代未聞の出来事がありました。
 黒田研二『闇匣』みたいな状況の、真っ暗闇の中、音声と風だけでストーリーが展開する、体感型のお化け屋敷にも入ったことがあります。
 ヘッドホンを付けると、そこは嵐の山荘で、殺人鬼がやってくるという内容です。扉が閉まる音、後ろで誰かが歩いているような気配、すぐ近くで起きる息遣い……。
「うわああああああ!」
 立ち上がってヘッドホンを外してしまいました。元の世界は平穏なのに、再び装着はできなかったことを覚えています。
 黒田研二
 ご依頼の件は、「推薦作品も一緒に」とありました。
 娘が子供の頃に読んでいた本で、怖いエピソードがあったなあと引っ張り出して読んでみました。
 あまり怖くなくなっている自分がいましたが、構想が面白く、怖いと思う人は多いかなあと思って推薦しています。
 そして、私の書いたショートショートはというと……。
「世にも奇妙な物語」母子愛バージョンといった形になりました。
 自分が一番怖いと思うことを想像しています。それに加え、こういった子供がいてもおかしくない社会になってきたなあと、起こり得そうな子供の心情を取り入れました。
 タイトルは「ハッピーバースデー」。
 たぶん、すごく怖いです。狂っています。壊れています。作者にとってはたいしたことないですが。
 12月2日(土)から、ジュンク堂書店池袋本店にて、「怪談アドベントカレンダー」という壁面展示が始まります。ここに提出しました。ありがとうございます。
 なお、私の作品の展示は、12月16日(金)から22日(木)の予定です。
 お近くの皆さま、どうぞお立ち寄りくださいませ!

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