漫画『キャンディキャンディ』|第55回 千澤のり子エッセイ

 なかよし創刊号など
(参考:写真は『なかよし』創刊号)

 仕事や家事の間、よくBSの番組を流しています。特に多いのが二時間ドラマと歌謡曲なのですが、ふと気づいたことがありました。
 私、小学校1年生までの記憶がほとんどない……。
 生まれは1973年なのですが、1980年デビューの松田聖子ちゃんのデビュー曲を知らないのです。もう少し遡ると、ピンクレディーもキャンディーズも山口百恵ちゃんも、ピンときません。
 アニメや子供向け番組は、主題歌ならば歌えます。結構多いです。『ぐるぐるメダマン』や『花の子ルンルン』は好きだったことと、『コメットさん』みたいなバトンが欲しかったこと、そのくらいしか覚えておらず、内容はまったく思い出せません。
 図書館の子供用コーナーで絵本を片っ端から読んだり、幼稚園でお迎えのバスが行ってしまっても『あんぱんまん』に夢中になっていたり、自分が本を読んでいた記憶はあっても、どんなことが書かれていたのかは、映像ですら浮かび上がってこないのです。
 なので、当時、とても流行っていた『キャンディキャンディ』も、どういう話かほとんど覚えていなのでした。
初めて漫画を読んだのは、おそらく小学校1年生です。
 通っていた耳鼻科に、少女漫画誌『なかよし』のバックナンバーが、たくさん置いてありました。何気なく手に取った1冊に、『キャンディキャンディ』最終回が掲載されていました(調べたら1979年3月号でした)。巻頭に、キャンディが扉を開ける後ろ姿が見開きで描かれていたのは、なんとなく記憶に残っています。
 ほかに覚えていることといえば……。
 キャンディは施設で育った。
 イライザは意地悪。きょうだいのニールも意地悪。
 丘の上に王子様がいた。スカートを履いていた。落馬して死んでしまった。
 キャンディは看護婦になった。
 誰かが戦場に行って飛行機が墜落した。
 最後に衝撃的なことがあった。
 この程度です。
 アニメには戦場は出てこないと思いますので、きっと、小学校時代の私はどこかでコミックを読んだのでしょう。
 子供の頃はKCなかよし版があちこちの本屋さんで売られていたのに、いつの間にか見かけなくなってしまいました。大人になってから文庫版が出ましたが、これも絶版になっています。いろいろな事情があるとはいえ、手に入らないと知ったら、逆に気になってきます。
 そこで、思い切って、全巻買いました。値段は定価の数倍しましたが、古本は価格ではなくタイミングが命だというマイルールに従いました。
 キャンディキャンディ
 いつか読もうと保管していましたが、この連載記事を書くにあたって、ページを開いたら……。
 一気読みでした。
 アンソニーの落馬はほんの序章にすぎず、その後の展開がめまぐるしくて、よくこんなに重い話を少女漫画誌で連載できたと感心しました。
 長い物語に感じられますが、たった4、5年ほどの出来事です。長い人生から見たら、ほんの一瞬にすぎません。
 孤児院で育ったキャンディは、12歳で貴族の娘の話し相手として雇われ、別の貴族の養女になり、寄宿学校に入学したけれど退学になって、単身でロンドンに行き、看護学校に入学して……と、物語はまだまだ続きます。
 その中で主軸になるエピソードは、寄宿学校で出会ったテリーとの恋愛です。彼との2回目の別れが本当に辛く、涙が止まりませんでした。
第5巻 
 ほかにもたくさんの登場人物たちが、片思いをしています。全員が報われません。なのに、恋愛ばかりでなく、人生の1ページとして面白く展開していくのは、キャンディが自分の足で立ち上がって生きていこうとしているからでしょう。
 誰からも好かれるキャンディですが、「みんなから愛される人」を嫌悪する少女も登場します。その人を単なる悪人として描かず、「こういう考えの人もいる」と解釈させられるところにも、この作品の良さとなっています。
 内容をすっかり忘れていてよかったと、心底思いました。
 しばらく記憶に残りそうですが、少女の気持ちを思い出したくなったときに、また再読する予定です。

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