『暗黒10カラット』あとがき|第52回 千澤のり子 エッセイ

暗黒10カラット 
 2月に新刊『暗黒10カラット 十歳たちの不連続短編集』(注1)が発売されました。私にとって5冊目の単著になります。アンソロジーに収録された作品、探偵小説研究会の機関誌に寄稿した短編、「ミステリ作家たちの横顔展」をはじめとするイベントの企画に書いたもの、『少女ティック』シリーズ(注2)の未収録作品などをまとめています。
ミステリ作家たちの横顔展 
 倫理観もへったくれもない邪悪な話が多いため、当初は「暗黒青春」という表現にちなんで、「暗黒子供」というタイトルにする予定でした。
 一冊にするために、あと数編書き下ろしを入れようと書き始めた矢先、北海道ミステリークロスマッチの締め切りが迫っていることに気がつきました。優先しても差し支えのないスケジュールだったので、書きたい放題に楽しく書いて「ドミノ倒しホワイダニット」を無事に提出できましたが、結果は非常に残念なことに……。
 闇に葬ろうかと思いましたが、この作品を入れたらちょうど10本になります。半数くらいが10歳の話なので、いっそ10歳の10の短編集はどうだろう、タイトルも『10(テン)』にしようかと編集さんに提案したら、無事にゴーサインをいただけました。
 ただし、ひとつ、条件があります。
「すべての作品がつながるような関連性を入れてください」
 いろいろなバラバラ死体の、あちこちのパーツをつなげて、一人の人間に完成させないとならない――。
 全話を10歳に設定し直すことは簡単でした。けれど、別々に書いた物語を一つの世界観にまとめることは、かなり難しく、パソコンや手書きメモの前で、数週間悩みました。ヒントはいただいていましたが、それだけではどうしてもつながりません。
 何もしないと出版はできません。できることから始めようと、先に初出をまとめていたら、企業のサイトでおこなった企画「サイバーミステリ小説アンソロジー」の担当さんから、「続きがありそうなお話ですね」とメールをいただいたことを思い出しました。
 そういえば、「初恋さがし」の友彦はどうなったのだろう。
 作者である私が考えていないのですから、彼は消えたままです。どこかでもう一度登場させられないかと、悩んでいた作品に彼の痕跡を残しました。
 まだ足りません。誰か自由に行動できる人はいないかと、作品を読み返していたら、気になる人物が出てきました。
 「ドミノ倒しホワイダニット」のサイコパス男娼大学生・是枝和成です。倫理観のおかしな人たちばかりが登場する本作でも、異常さがずば抜けています。ならば、彼も鍵となる人物にしてみよう。こうして、友彦と是枝を中心に世界観を統一させていきました。
 舞台もだいたいの作品が同じ場所です。いくつかの作品に出てくるショッピングモールは、すべてアリオ亀有がモデルになっています。少し前まで閉鎖された工場の跡地と倉庫群しかなくて閑散としていたのに、今はすっかり街の人気スポットになりました。戦後からの昔なじみの建物はなくなり、人工的な下町情緒を健在させた、下町テーマパークをリアルに実現させた街が、今の亀有だと感じています。その歪さが本作の雰囲気に合いそうな予感がして、街の空気も取り入れました。
アリオ亀有
 こうして完成した作品が、『暗黒10カラット』です。はっきりと提示はしていませんが、バラバラに見える時系列も、実は順番があります。冒頭の「口紅」は、時系列では最後になるように持ってきています。あの恋人も、別の作品に出てきます。
 タイトルはどうしても暗黒を入れたかったのと、私の10歳の夢が宝石屋さんになることだったので、このように付けました。
 裏話はもっとたくさんあります。なので、イベントをおこなうことになりました。詳細はこちらです。千澤のり子先生『暗黒10カラット』出版記念トークショー【オンライン開催】 – パスマーケット (yahoo.co.jp)
 「黒いすずらん」ができた経緯、もっとも人物の心理描写に苦労した「少女探偵の習い事」、エピソードの一つを入れ替えた「ドミノ倒しホワイダニット」、一つのトリックで二つの話の「逆ABCバーガーの謎」などを語り尽くす予定です。ご興味がございましたら、ぜひ皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

(編集者:注)
(注1)2022/2/11 行舟文化 刊行
(注2)第39回にて『少女ティック 下弦の月は謎を照らす』の自作解説があります。こちらも是非お読みください。

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