日常以外の交友関係|第48回 千澤のり子 エッセイ

 2016年から約2年半、葛飾区の囲碁同好会に足を運んでいた時期があります。仕事や生活とまったく関係のない非日常の場で過ごすことが楽しくて、私は月に2回の活動にほぼ毎回参加していました(現在、同好会は活動休止中です)。
 生活スタイルが変わって通えなくなってしまっても、立ち上げメンバーの一人であった女性とは、今でも交流が続いています。かなり若い方で、叔母と姪くらいの年齢差がありますが、温和で行動的で、とても頼りがいがあります。
 囲碁以外では、本や映画が好きという共通の趣味を持っています。ご自宅に遊びに行ったとき、たくさんの本と漫画にとても驚きました。仕事以外で出会ってきた本好きの方の大半が、ミステリならミステリ、SFならSF、ホラーならホラーと、ジャンルや作家に主軸を置いて本を所有していましたが、作品を単体で好んでいるのだということがよく伝わってくる本棚でした。
 なのに、改めて振り返ると、彼女とは、これまで本に関する話をしたことがほとんどありません。私が仕事以外の場では仕事を想起する話を避けているから、というわけでもなさそうです。
 お互い本が好きなのに、どうしてなのだろう。
 ミステリ好きの方とはミステリの本の話ばかりしているのに。
 緊急事態宣言も解除されたので、「そろそろ遊びませんか」と連絡を取った際に考えてみて、ふと結論が出ました。
 同じ本を読んでいないからではないか。
 たまには自分の好きな本をお勧めしてみようと、本棚を見つめました。でも、どれもピンときません。
 こんなにたくさん本があるのに!
 しかも、友達にすら本を勧められないなんて!
 少しへこみながら、あちこちの棚をあさっていたら、一冊の本が目に止まりました。
 それは、ゲームブックの『フォボスのほしめぐり』です。

 たいむましんさんで記事を書いたときは、ハッピーエンドを迎えられませんでした。その後、何回か読んでも、やはりバッドエンドばかりです。
 きっと、彼女なら解き明かせるかもしれないと思い、再会の日に持っていきました。
 私は仕事と取材の間の空き時間、彼女はそろそろ幼児の仲間入りとなるお子さん連れ。ほんの一時でしたが、十数年ぶりに幼い子と公園で遊ぶことができて、大満足でした。
 お子さんの休憩中、ベンチに並んで座り、絵本を開きました。対象年齢には届いていないのでまだ難しいかと思いましたが、最初のキャラクターを選んだり、分岐点の選択も決めたりしてくれます。
 本文はところどころで飛ばしながら、ページをめくっていったら、またしてもバッドエンドでした。でも、お子さんはまったく気にしていません。大人と一緒に本を読むということが、とても楽しそうでした。友達もすごく面白がってくれて、このシリーズのほかの作品にも興味を持ってくれました。
 後日。「グッドエンドがひけました!」というラインメッセージとともに、画像が届きました。このページに行くならば、この選択肢を選んでと、頭の中で逆算してみました。私はオーソドックスな道を選んでいなかったようです。
 ラインついでに、思い切って「好きな漫画と小説、それぞれ5作挙げてくれませんか」と聞いてみました。 
漫画は手塚治虫『ブラック・ジャック』、田村由美『ミステリと言う勿れ』、うすた京介『ビューと吹くジャガー』、安倍夜郎『深夜食堂』、ヤマザキコレ『魔法使いの嫁』。
 小説は森見登美彦『四畳半神話大系』、テッド・チャン『あなたの人生の物語』、加門七海『怪談を書く怪談』、ジュール・ヴェルヌ『地底旅行』、マレーク・ベロニカ『ラチとらいおん』。

 これまで本好きの方と話をするときは、読んでいる本を語り合ったり、未読本を勧め合ったりするばかりでしたが、「相手の好きな本を読む」ということは、あまりしたことがありません。
 次に会ったら、この話をしてみようと、小説の中から一冊選択して、ネット書店のカートに入れました。
 でも、なんとなく、別の話題ばかりになりそうな予感もしています。あえて話題を準備しなくても、自然に楽しく語り合える。友達って、そういう仲の人のことをいうのかもしれないなと思いました。

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