紙の本と電子書籍|第42回 千澤のり子 エッセイ

 先日、さいたま文学館で行われていた企画展「没後55年記念 江戸川乱歩と猟奇耽異」を見に行ったとき、一緒に行った友達からDMMブックス初回購入限定100冊70%オフの話を聞きました。
 日頃から「本は紙で読みたい」と豪語していますが、電子書籍をまったく買わないわけではありません。電子のみの本、今すぐ読みたい本、過去に手放したけれどもう再読したい本は、電子書籍を利用しています。ときどき、紙と間違えて購入していることもあります。

 本代のために働いているのかと思うくらい、毎月恐ろしい金額を費やしていますので、安いに越したことはありません(ただし、私の金銭感覚は低いです)。けれど、新しいアプリを入れて、登録をしてという行為が億劫で、触手が伸びませんでした。食材なら絶対買うのに、データだとためらってしまうとは、人間って不思議なものです。
 「私、『Q.E.D. 証明終了』を持っていないのよね」
 ミステリ漫画の人気シリーズです。漫画喫茶でたまに読んでいたので、改めて購入するのは抵抗があります。でも、コロナ禍のせいで、次はいつ友達と遊べるか分からないし、会わない間に友達の好きな漫画を読んでおこうかなという気になっていました。
 コミックは全50巻。新シリーズの『Q.E.D. iff-証明終了-』は17巻出ています。両方買っても、まだ割引クーポンは使えます。
 調べてみたら、複数冊をあわせた版も取り扱っているとのこと。こちらを買えば冊数が減り、浮いたぶんだけ別の本を安価で買うことができます。
 相当サーバーが重くなっていましたが、全冊大人買い。それから、友達のお勧めの『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』、『魔人探偵脳噛ネウロ』、子供の頃すごく好きだった『名探偵江戸川乱子』、ほかにもいくつか調整をして、すべて漫画で100冊に到達できました。
 定価購入なら、7万円以上。それが、2万円と少し。高いのか安いのか分かりません。予定外の出費に後で後悔しそうですが、クレジットカードの明細を見なかったことにすればいいだけの話です。
 何より、漫画を一気に100冊買うと、心が踊ります。重くて持ち帰れないわけではないし、届いてから置き場に困るわけでもありません。
 解散後、早速電車内で1冊を選びました。津雲むつみさんの短編集です。一時期は入手困難の作品もありましたが、今はほとんど電子化しています。確かこのタイトルは持っていないはずとページをめくったら。
……この話、知っていた。
レディースコミックをメインに保管している別の電子書籍アプリを立ち上げ、確認してみたら、たしかに同じ本がありました。
……まさか、電子書籍をダブって買ってしまうとは!
紙の本ならダブり本は結構あります。あえて2冊買うどころか、版違いも入れたら4冊出てきた本もあります。画像の中のある本が該当します。

あるいは、うっかり電子で買ってしまい、紙で書い直した本もあります。

 電子媒体でも本の整理をしていないからだと、少しだけ反省しました。ただ買ったままでは分からなくなってしまうものなのですね。
 このとき買った漫画は2冊読了して、まだ98冊を積んでいます。どうせ積んでしまうのなら、家にあるかなり傷んでいる漫画を電子で書い直し、所有しているぶんは処分し、空いたスペースに入れる紙の本を買えば良かったのにと思いました。
でも、私は紙の本が好きなのだ。ボロボロでもいいのだ。
 理由は分かりません。
 ですが、神奈川近代文学館で行われている「創刊101年記念展 永遠に「新青年」なるもの ―ミステリー・ファッション・スポーツ―」を見に行ったときに、自分の気持ちが腑に落ちました。
 展示品の最後に、雑誌「新青年」全400冊が並んでいました。電子書籍は表紙が並んでいても、立体感はありません。だけれど、紙の本は、奥行きがあって、色あせているけれど、紙が生きてきた時代を映しているように感じました。
 本は中身だけではなく、紙も価値があるのだと、改めて思った次第です。

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