階段をのぼるとそこはパラダイス~神田古書店街・玉英堂書店~|第5回 黒田研二 エッセイ

 皆様、あけましておめでとうございます。年末から年始にかけて、ひたすら食べて呑んでゴロ寝をしていたせいで、五キロ以上も太ってしまった黒田です。
 でも大丈夫。心配はいりません。シェイプアップするなら古書店巡りがオススメ。あっちの古書店、こっちの古書店とうろうろ歩き回るうちに、カロリーを大量消費できるはず。古書を何冊も購入すれば、それがバーベル代わりとなって、さらに痩せられるかもしれません。140軒以上のお店が並ぶ神田古書店街なら、一日中楽しく歩き回れるので、夕方にはムキムキボディーになっている可能性大(ただし個人差あり)。
 というわけで、前回に引き続き、神田古書店街の魅力を古書店ビギナーの僕が可能な限り伝えていきたいと思いますっ!
 まずは、神田古書店街のメインストリート(靖国通り)で、僕の心に残ったいくつかのお店を東から西へ――小川町から神保町に向けて順番にご紹介。


江戸時代の古書が並ぶ「大屋書房」。タイムスリップした気分になれます。


古地図や鉄道関連の書物が充実した「秦川堂書店」。


古書店のデパート「神田古書センター」。


星占いから本格的な易学まで、占いについて調べたいなら「原書房」。


サブカル全般を取り扱った「ブンケン・ロック・サイド」。アイドル本関連も充実。


映画や演劇の書籍を扱う「矢口書店」。僕も寄稿している刑事コロンボ同人誌〈COLUMBO! COLUMBO!〉はこの店で入手できます。


スポーツ雑誌のバックナンバーが数多くそろっている「ヴィンテージ」。

 ホント、どの店も個性的。こんなにもたくさんの古書店が並んでいるというのに、ひとつとして同じ顔がないのがまた驚きだったり。紹介できなかったお店もたくさんあるので、正月太りの解消も兼ねて、今度の週末はぜひ神田古書店街へ足を運んでみてください。
 さて。靖国通り沿いでもっとも目を惹いたお店がこちら。


「玉英堂書店」
 ぱっと見た感じは普通の古書店。でも、きっとこのお店もものすごい個性を持っているはず。期待しつつ、中に入ってみると……。


 入口付近には、わりと新しめの日本文学作品が並んでいました。……あれ? あまり個性が感じられません。


店の奥に進むと、芥川賞・直木賞作品を集めた棚が。


こちらは乱歩賞コーナー。

 うんうん、だんだん楽しくなってきましたよ。でも、まだまだ個性が足りないような……。この店には、もっとなにか、すごいことが待ち受けているような気がしてならないのですが……。さらに奥へ進みます。


お。

〈二階稀覯本〉……興味深い案内表示を発見しました。案内表示の両隣にはガラスケース。その近くには二階へ続く階段があります。一体、どんな本が置いてあるというのでしょう? 期待は一気に高まります。


ガラスケースの中を覗きこんでみると……。


……え?


おおっ!


おおおおおおおおっ!

 松本清張、山田風太郎、鮎川哲也……巨匠たちの生原稿を、まさかこんなところで拝めるなんて。じゅるり(よだれをすすりあげる音)。しかも、鮎川先生にいたっては書簡まで! こんなの読みふけっちゃうに決まってるじゃないですか。流れるような文章はもちろんのこと、文字の形までひとつひとつじっくりと眺め、感動を噛み締める黒田。
 ……え? ちょっと待って。二階へ向かう前から、すでに感激しちゃってるよ。二階にはこれ以上のレアアイテムがまだあるってこと? 俺、びっくりしすぎて心臓止まっちゃうんじゃない?
 さてさて。ドキドキしながら階段をのぼり始めたわけですが……。


階段で出迎えてくれたのはフクロウの置物たち。


階段の壁にも、有名作家の短冊や色紙など、レアアイテムがずらり。


こちらは稲垣足穂の書簡。

 階段をのぼっている間も、ひっきりなしに出現する興味深いアイテムたち。そのたびに足を止めてしまうため、なかなか先に進むことができません。


ようやく二階に到着。

 はうあっ!
 ……いや、もう思わず息が止まっちゃいましたよ。階段をのぼって息切れしたわけじゃありませんよ。僕のような素人でも、そこがヤバい空間であることは雰囲気で感じ取ることができました。姿勢を正し、厳かな気持ちで奥へと進みます。


誰もが知っている名作の初版本が!


有名作家の草稿もあちこちに。自由に手に取れるようになっていましたが、こんなの恐れ多くてさわれませんって。


僕の足りない知識ではよくわからない歴史的文献もいっぱい。

 いやいや、これはもはや古書店じゃありません。博物館です。入場料を払ってもよいくらい。博物館っぽい静かで落ち着いた雰囲気もたまりませんね。店の奥へ進めば進むほど、レアアイテムが増えていく構造もイカしてます。神田古書店街へ出かけたら、必ず立ち寄らなくちゃいけないお店のひとつなんじゃないでしょーか。
 百聞は一見にしかず。皆さんもフクロウの階段の向こう側にある夢の世界をぜひともご堪能くださいませ。
 神田古書店街探訪記、まだまだ続きます。

《今回、お世話になった古書店さま》
 玉英堂書店
 日祝定休 10:30~18:30
 東京都千代田区神田神保町1-1
 http://gyokueido.jimbou.net/

《今月のくろけん》
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