きものはじめ|第46回 千澤のり子 エッセイ

 ごくたまに、ツイッターで、「人生を変えた本」というハッシュタグを見かけることがあります。「影響を与えた」「支えになった」「道を決めた」本ならありますが、「変えた」となるとピンとこず。まだ出会っていないのかもしれないと思っていたところ、ふと、ある本が思い浮かびました。
 それは、笹島寿美『ひとりでキモノを着る本』です。

 着物を着るようになったのは、16年くらい前になります。着物を1着持っていたら、あらゆる祝い事に対応できるのではないかと思ったことがきっかけでした。
 もうすぐ娘の七五三があるから着物デビューをしてみようと、夏の終わりの暑い日に、外遊びついでに近所にある大型スーパーの着物店を訪れました。目的を伝えて、試しに羽織らせてもらい、費用を見積もってもらったら……。
「36万円です」
 3,600円の洋服だって買わないのに!
 ローンを組めばどうにか支払えます。質はかなり良いものらしいので、一生着るのならもとが取れるでしょう。でも、そんなに高価な服では、気軽に外を歩けません。
 諦めて帰宅し、もっと安く買えないかとネットを見ていたら、「初めての着物セット」が2万円で販売されているのを見つけました。高いけど、買えなくはありません。
 思い切って、ポチっ。数日後、商品は届きました。着付け道具も一式揃っています。草履もあります。
でも……。
 これ、どうやって着るのだろう。
 慌てて書店に出向き、見つけた本が『ひとりでキモノを着る本』でした。基礎知識から着方、帯の結び方、たたみ方まで、段階ごとにイラストがついていて、説明文の大半が川柳で表されているので、言葉で着方を覚えることができます。
 この本のとおりに着てみたら、どうにか着ることができました。浴衣用に持っていた半幅帯なら難なく結べます。でも、鏡を見たら、ぐちゃぐちゃです。
 毎日着れば、うまくなるかもしれない!
 次の日から、子供たちが寝た後に着付けをして、外を一周していました。振り返ると、自分の無知が恐ろしくなります。私が買った着物は10月から5月まで着用の袷。8月なら薄物か浴衣、9月だったら単衣を着るのが決まりです。
 慣れてきたら、いろいろな着物を着てみたくなりました。私が特に好きな組み合わせは、ムック本の『KIMONO姫』で紹介されている、柄をたくさん重ね、少し着崩したタイプ。洋服生地も組み合わせられることを知りました。帯は、軽装帯という縫製品にすれば、簡単に巻けそうです。
 こうなったら、36万円でどれだけ買えるか投資してみよう。
 それから、私の着物人生は始まっています。
 まずは、たまたま近所にできたアンティーク着物店に通い、改めて着付けを習いました。とてもセンスのいいお店なので、コーディネイトのコツも来店時に教えてもらえます。バーゲン時には1,000円で正絹の着物や帯も見つけることができました。
 ネットオークションもフル活用しました。商品によっては500円以下で落札できることもあります。足袋は靴下屋さん、半襟や帯揚げは古きものを解いたもの。友人や近所の方からのいただきものも身につけています。実は、着物は、商品によっては、洋装よりも安価なのです。
 本は、相当数を読みました。かなり処分していて、画像は現在の所有本です。君野倫子『きもの便利帖』は日常生活で着物を着たいという方にとてもお勧めです。お酒を飲むときの美しいしぐさも写真付きで紹介されています。

 そして、つい最近、念願だった着物サークルを設立しました。会員は日本推理作家協会員が中心です。碧野圭さんのつぶやきが発端となり、私は足軽に立候補しました。ほかには新津きよみさん、稲羽白兎さん、倉阪鬼一郎さんの奥様がメンバーにいらっしゃいます。
 活動内容は、着物を着て、着物関連のおしゃべりをすること。コロナ禍につきZOOM越しですが、徐々に会員を増やし、月に1回定例会を開くことが現在の目標です。
 もっと大きな野望がありますが、叶うまでは秘密です。

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