北海道の思い出|第44回 千澤のり子 エッセイ

 先日、台湾のホラー、ミステリ作家・既晴さんのインタビューを行いました。
 既晴さんは、北海道ミステリークロスマッチのお仲間です。インタビューでは北海道とのつながりも語っていただきました(北海道ミステリークロスマッチについては『2021本格ミステリ・ベスト10』で大森滋樹さんが詳しく紹介されています)。
 東京在住で、北海道に縁もゆかりもない私が参加したのは、探偵小説研究会の任務で来道したことがきっかけでした。
 今からちょうど4年前。探偵小説研究会の掲示板にこんな書き込みがありました。
文学フリマ札幌に参加するので、東京から売り子のお手伝いをお願いできますか」
 当時の北海道在住会員は、大森さんと諸岡卓真さんのみ。東京以外の即売イベントに参加するのは初めてです。
(あれ? もしかして、ご指名されている?)
 売り子に慣れていてフットワークの軽い会員は数人しかいません。さらに、兼業よりもスケジュール調整がしやすい、あまり働いていないフリーランスというと、該当者は私だけです。
 ならば行くしかない! とあちこちを説得し、格安航空券と宿の手配をとりました。
 前日はほとんど眠れず。かなり早い時間から成田空港で待機し、夕方に新千歳空港へ到着。宿の最寄り駅で道に迷い、豊平川まで行ってしまい、待ち合わせ時間にはかなり遅れてしまいました。初日は大森さん、諸岡さんと終電まで交流を深めて解散。
 2日目は、早朝から中島公園を散策してラジオ体操に参加してから札幌入り。真っ先に向かった先は、札幌時計台です。佐々木丸美『雪の断章』を読んでから、時計台はずっと憧れの場所でした。それから、大通公園を経由して、会場であるさっぽろテレビ塔に到着しました。
 いよいよ本番です。準備はスムーズに終わり、売り子業務も順調に進みます。札幌開催は初めてのせいか、お客さまは一つ一つのブースをじっくり眺めていました。

 探偵小説研究会という団体そのものに興味を持ってくださった方が多かった印象があります。ミステリをある程度知ってから評論を読むのではなく、ミステリを知らないから評論を読んで覚えたいという方も数名いらっしゃいました。
 休憩時間にはこんなことも。
「バンジージャンプしてもいいですか?」
「駄目です!」
(ですよね。遊びに来たのではないですものね……)
 大森さんは私の体調を気遣ってくださったそうです。メールだとかみ合わないものです。
 代わりに訪れた展望台から見下ろした札幌の街は、初めて見るのになんだか懐かしく、すごく身近な場所のように感じました。

 大盛況だった第1回札幌文学フリマの後は、交流会です。ミステリ作家の柄刀一さん、お隣ブースだった浅木原忍さん、ばらのまち福山ミステリー文学新人賞出身の松本寛大さん、北海道情報大学の谷口文威先生が合流され、北海道のミステリ活動を中心に、書き手の思いとミステリ愛をたくさんお聞きしました(後に、浅木原さんと松本さんは探偵小説研究会の会員になっています)。
 3日目は朝から、大森さん、諸岡さんと、その年の1月に亡くなった中辻理央さんのご実家に伺いました。
 中辻さんはハードボイルドを敬愛する評論家で、探偵小説研究会員でもあります。決して表には出さないけれど、思いやりの深い方で、私は入会時からずっと叱咤激励されていました。ひとしきり思い出話をしたあと、お母さまが「あなたたちは親より先に死なないでね」とおっしゃったことが忘れられません。

 弔問後、諸岡さんのご家族が合流され、皆さんに見送られながら、私は高速バスに乗って観光予定の小樽に向かいました。車中で食べた、中辻さんの大好物だったという、ご実家で採れたさくらんぼの味を今でも覚えています。
 閑話休題。
 既晴さんは、インタビューで「もっともっと皆さんと交流を深めたい。北海道を知りたい」とおっしゃっていました。私も同じ気持ちです。
 書くのは一人。でも、たくさんの人が集まれば、その数だけ、大きなことができるのではないかと思い、私はあちこちの活動に顔を出しています。

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